単純ヘルペス脳炎(小児期)
診断基準
1.症状
- 発症年齢は,6歳未満が多いが,小児期のどの年齢層にもみられる.発生に季節性は無い.ヘルペス性歯肉口内炎の合併は稀.
- 初発症状としては発熱が高頻度.神経学的初発症状としては痙攣,意識障害,構音障害が多い.しかし,小児期の他の病因による急性脳炎・脳症と比較して,単純ヘルペス脳炎に特異的な症状は無い.
- 急性期には,半数以上は重篤な意識障害を呈するが,意識障害が軽い例も存在する.
- 成人の単純ヘルペス脳炎に比較すると,急速に意識障害が進行する例が多い.
- 小児の単純ヘルペス脳炎の20~30%に再発をみとめる.
2.神経学的検査所見
- 神経放射線学的所見にて,通常,側頭葉・前頭葉など,新生児では後頭葉に病巣を検出する.
- 頭部コンピュータ断層撮影(CT)
- 頭部磁気共鳴画像(MRI)
- 脳波:ほぼ全例で異常を認める.局在性の異常は多くの症例でみられるが,周期性一側てんかん型放電(PLEDS)は急性期に一部の症例で見られるに過ぎない.
- 髄液所見:通常,髄液圧の上昇,リンパ球優位の髄液細胞増多,髄液蛋白濃度の上昇,および髄液糖濃度は正常を示すことが多い.また,赤血球やキサントクロミーを認める場合もある.
3.ウイルス学的検査所見(確定診断)
- 抗ウイルス剤開始前の髄液を用いたpolymerase chain reaction(PCR)法によるHSV-DNA検出
- 単純ヘルペスウイルス(HSV)抗体測定による診断
- 髄液HSV抗体価の経時的かつ有意な上昇※があり,また,髄腔内抗体産生を示唆する所見†がみられること.
- 髄液からのウイルス分離は稀である.
注釈
- 上記の1,2から単純ヘルペス脳炎を疑う症例を「疑い例」,3のウイルス学的に確定診断された症例を「確定例」とする.
- ※判定に当たっては,抗体測定方法と測定結果表示法に留意する.CF,NTなどでの2段階希釈法による表示抗体価の2管以上の上昇を有意の上昇とする.ELISAでの吸光度測定結果の直接表示,ELISAでの吸光度測定結果の任意的単位による表示では有意差の判定,髄腔内抗体産生の判定には慎重を要する.
- †血清/脊髄液抗体比≦20 または抗体価指数=脊髄液抗体/血清抗体÷脊髄液アルブミン/血清アルブミン≧2
治療
- 呼吸循環管理、輸液栄養管理、電解質の調整
- ACV投与、不応例ではビダラビンの使用を考慮
- けいれん・脳浮腫に対する考慮
単純ヘルペス脳炎(新生児期)
- 発症病日は,多くは生後3週間以内である.
- 初発症状としては発熱,哺乳不良,活気の低下などの非特異的症状を呈する.痙攣は初発時の約25%に見られる.
- 続発症状として易刺激性,大泉門膨隆,局所性或いは全身性痙攣,弛緩性或いは痙性麻痺などの神経症状を呈するが,全身型に見られる全身症状は少ない.
- 皮疹や口内疹は診断の参考になるが,全例には見られない.
- 母親の性器ヘルペスの既往は25%にすぎない.